沢蔵司(たくそうず)が通ったそば屋

妖怪に会える地

2020年9月  

 来訪場所:東京都文京区 慈眼院

お坊さんに化ける狐たち

狐がお坊さんに化けるお話は各地に伝わっているようですが、有名なのは『絵本百物語』にも

記載のある山梨県の「宝塔寺の白蔵主(はくそうず)」でしょう。

狐を釣る猟師に殺生の罪を説こうと、彼の伯父である宝塔寺の白蔵主という僧に化けるという話で

(だいぶいろいろ端折りましたが・・・)、

以来、狐が僧に化けることを総じて「白蔵主」と呼ぶようになったそうです。

寺で学ぶ優秀な狐

宝塔寺の白蔵主は、事情があるとはいえ、お坊さんを食い殺してしまい、徳の高い僧とは言い難い

ですが、今回訪ねた慈眼院の沢蔵主(たくそうず)は、頭が良く、他の僧と仏門を学び、

3年で奥義を修得する程優秀だったそうです。

沢蔵主稲荷の伝承は以下のように伝わっています。

文京区小石川にある伝通院の正誉覚山上人が京都から帰ってきた時、道中で沢蔵という僧と出会い、

伝通院で学問をするようになった。沢蔵は毎日の法門内容を前日に語ったりするなど、とにかく優秀で

同僚の僧たちも驚くばかりであった。ところが、ある日熟睡している時に狐の正体を現わしてしまい、

これを恥じて沢蔵は姿を消すが、その際、修行させてくれたお礼にと、寺の守護を誓ったのだそう。

そして現在の慈眼院の守護神、沢蔵主稲荷として祀られるようになった。

正体を見られたとはいえ、それ程優秀であれば周りのお坊さん達も咎めたりはしなかったのではないか

と思いますが、狐であることが知られたので潔く姿を消し、寺の守護まで誓ってくれるとは、

品格があり、徳の高い僧だったのではないかという印象を受けます。

お狐様がたくさんいる境内

さて、そんな沢蔵主稲荷が守護神である慈眼院は、三田線春日駅から歩いて15分のところにあります。

坂道を登りつつ、カーブの途中で急に「沢蔵主稲荷 慈眼院」の石碑が眼に入ります。

正面の鳥居は珍しいデザインです。あまり見ない形ですね。

こちらは、沢蔵主稲荷が学僧の時に通っていたお蕎麦屋さんの提灯。今でも営業しているというのは

驚きですね。不思議な感じです。

そして境内に入るととにかくそこかしこにお狐様が。都内とはいえ、大きな通りから外れているため、

静かで緊張感が漂います。

本堂でお参りです。

本堂すぐ右に霊窟おあなの石碑が。ここを下っていくと更に空気が変わり、一層神秘的な雰囲気です。

夏の終わりに訪問したので、周りの木々からひっきりなしに落ち葉や実のようなものが音をたてて

落ちてくるので、異界にお邪魔しているような感覚になってきます・・・。

連なった鳥居の一番奥に祀られているのが、霊窟様。沢蔵主稲荷の使いの狐で、

ここに住んでいたそうです。

お参りして戻ります。霊窟様の周辺にもたくさんのお狐様。

謎の石碑

ところで、慈眼院の境内には「不鳴庭(なかずのにわ)」という石碑が建てられているのですが、

これについての説明が何もなく、調べたらすぐ出てくるだろうと思っても

これがなかなかヒットしない・・・。

小一時間検索すると、慈眼院の住職さんが運営しているブログを発見!

こちらのブログ内の検索でようやくたどり着きました。

無量山傳通院の「七不思議」の一つ。山内の蛙は江戸時代、壇林での修行僧の修行や勉学の妨げにならないよう声を出して鳴かなかったと伝えられている。

出典:慈眼院「沢蔵主稲荷」住職・別当のblog

とのこと。

お狐様に関係のあることかと思いきや、そんなことも無かったですね。

ただ、沢蔵主稲荷が伝通院の学僧であったことを踏まえると、関連がなくもないと言えるでしょう。

沢蔵主稲荷の通ったお蕎麦屋さん

前々から行きたい行きたいと思っていた、沢蔵主稲荷が学僧の頃通っていたという萬盛さんです。

慈眼院から歩いて10分ぐらいでしょうか。

お稲荷さんつきの蕎麦など食べたいところですが、極度の小食なので、いろんな食材が少しずつ

のった蕎麦を注文。(日替わりとか、萬盛蕎麦とか、そんな名前だった気がします)

・・美味しい。蕎麦にはめずらしい海苔やお餅がのって、中身が大きめの海老まで。

沢蔵主稲荷が訪れた時は、代金のお金に木の葉が混じっていたとか。

その時のお店で今もまだ蕎麦が食べられるとは、感動です。

遙か昔の不思議な存在と、現代が繋がりを感じることができ、

こういう時に伝承巡りをしていて良かったと実感します。

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